今年の三冊
今年読んだ書籍のうち、印象に残ったものを三冊、上げるとしたら、下記の三冊だろう。
「世界経済を破綻させる23の嘘」ハジュン・チャン著 徳間書店
「弱い日本の強い円」佐々木融著 日経プレミアム新書
「世界が賞賛した日本の町の秘密」チェスター・リーブス著 洋泉社新書
前二冊は、すでに稚拙ながら紹介をしているので、最後の一冊について。
この本は、前二冊のような論説調の書籍ではない。どちらかと言えばフィールドワーク的な著作であり、エッセイのようでもある。主な内容は、過剰なモータリゼーションに警鐘を鳴らすとともに、日本の町をママチャリが闊歩できる場所として賞賛するという、とてもユニークなロジックを、丁寧な取材と、母国アメリカとの対比で描いている。単なる自転車の賞賛ではなく、ママチャリをコミューター交通の一手段として位置づけ、公共交通機関との連携で大きな可能性を指摘しているあたり、まさに慧眼であると思料する。スポーツタイプの自転車が、自転車の代表であると考えるのは誤りだとはっきり指摘し、道路交通の問題、放置自転車や駅前駐輪の問題など、幅広く論考している。
これこそ、ツーリングと自転車通勤を楽しむ多くの方々からのお誘いに違和感を感じていた、その根本でもある。なにか、宙に浮いているような、そんな感覚の正体がようやく理解できる。
氏の認識には、若干調査不足や認識の誤りもあるが、それは大きな問題ではない。むしろ自動車業界やスポーツ自転車業界が、こぞって自分たちの製品を売らんがために、例えば日本政府や国会議員に働きかけて、自動車に有利な道路交通政策や都市計画を策定するよう仕向けてきたことが、氏の指摘であからさまにわかる。それはジェーン・ジェイコブスが、路面電車の普及すら、本当に必要なものか、他にもっと有用で安価な交通手段はないかと自問自答するような、謙虚で繊細な著者の考え方を表している。
不思議なのは、どうして行政は、ママチャリの一番の利用者たちを無視して、道路政策にせよ都市計画にせよ、長年行ってきて、それをいまに至っても変えようとしないのだろう。またどうしてその有権者は、その声を政策に反映させようとしないのだろう。それほどまでに、自動車産業や不動産業などの、業界団体の声が大きいということだろうか。
例えば路地文化を賞賛する声は、日本国内にも当然存在する。他方、多くの自治体が防災面の強化を企図して、いまだ路地の保存ではなく、拡幅ないし解消を無条件に望んでいる。これからインフラ投資の財源がどんどん減少していくであろう我が国では、より少ない資本投下で、よりたくさんの防災効果をえるべく、工夫することもひとつの大きな課題だろう。たとえそれが自動車産業や不動産業の利益に反していたとしても、米びつに米が無い以上は、節約せざるをえないのだから。そのための、ひとつの有力な方法として、ママチャリの尊重が検討されるべきだろう。
この書籍は、どうしてアメリカ人女性によって書かれたのだろうか。どうしてママチャリの愛好者から、こういう主張が生まれなかったのだろうか。著者の主張は、ママチャリを愛する沢山の利用者によって今後益々支持されていくのではないか。
経済の大胆なグローバル化による、身近な生活圏の破壊があすにも始まるかもしれない今日このごろ、こういった庶民の地道な抵抗が、もしかしたら世界経済の連鎖的破綻から日本経済を救うことになるのではないか、と、ふと大言壮語っぽく考えた次第である。


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