「書かされた」不動産鑑定評価書?
最近、仕事で見ることになった、不動産鑑定評価書に驚いた。それは併合鑑定評価の限定価格を求める不動産鑑定評価書であったが、対象地の正常価格ならびに隣接地の正常価格、併合後の一体地の正常価格を求めるのに際して、規準価格を求めた形跡がなく、また評価書の本文に一切その記載がなかったからだ。
地価公示法第8条には、不動産鑑定士等が正常価格を求める場合は、公示価格と規準しなければならないと定められているが、限定価格は正常価格ではないので、その点だけをとらえると公示価格との規準は必ずしも必要ないとも解することもできる。しかし、評価書本文に、「対象地の正常価格」と明記して、その価格を比準価格と土地残余法による収益価格とを求めることによって導いているのは、どうにも違和感がある。更地の鑑定評価において規準するべき規準価格はどこにいったのだろうか?
試しに近隣類似と思われる地価公示ポイントを二地点採用して、地域要因のみを比較する参考指標としての相続税路線価をあわせて表記すると以下のようになる。
価格 (参考)相続税路線価 面積
対象地 X円/㎡ 3,600千円/㎡ Y㎡
標準地A 1,150千円/㎡ 1,090千円/㎡ 81㎡
標準地B 2,400千円/㎡ 2,160千円/㎡ 148㎡
この評価から、対象地の価格を1,500千円/㎡前後と導きだすのは、かなり影響力の強い個別的要因が作用していると考えるか、地域要因の参考指標として相続税路線価を採用したこと自体が、なんらかの理由で誤っているかのどちらか、またはその両方か、と普通は考えるのではないか。対象地の面積は、標準地Aの面積に満たない大きさであり、必ずしも許容容積率を最大限活用することが最有効使用とならないものではあるが、その地域における標準的画地と想定してもなんら違和感のない大きさであり、そのほか有力な個別的要因があるとは考えにくい。そうすると地域要因の参考指標として相続税路線価が採用可能であるという限りにおいて、どうにもつじつまがあわない。不動産鑑定評価基準に定める通常の手順に従って規準価格を求めると、対象地の試算価格は、規準価格が突出して高いという結果になることも想定される。これは規準価格がおかしいのか、比準価格や収益価格がおかしいのか、不動産鑑定士であれば再考に再考を重ねるべきところだろうと私は考える。
この鑑定評価書は、日本の鑑定事務所のうち、おそらくは十指にははいるであろう、ある準大手事務所が発行したもので、ふたりの不動産鑑定士が署名捺印している。そして、これまた日本を代表するある大手メーカー宛に発行されている。こんなことは想定でしかないが、隣地所有者である大手メーカーが、準大手鑑定事務所に依頼して、弊社保有の資産を安く譲り受けるために、限定価格の鑑定評価書を安く書かせようと圧力をかけ、準大手鑑定事務所は、地価公示法第8条に定める公示価格との規準が正常価格を求める場合に限定されていることを意図的に拡大解釈し、対象地や隣接地、併合後の一体地それぞれの正常価格を求める場合まで規準価格の算定が不要として、つじつまをあわせたのではなかろうか。不動産鑑定評価書の信頼が揺らいでいるといわれて久しいが、不動産鑑定士の先生方は、仮に日本を代表するビッククライアントからの依頼であっても、不動産鑑定評価基準の解釈を歪めるような鑑定評価に手を染めないように切に願う。


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